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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2059号 判決

原告 浜中昭三

右訴訟代理人弁護士 伊集院實

被告 株式会社藤岡産業

右代表者代表取締役 藤岡満

右訴訟代理人弁護士 鈴木由彦

主文

一  原告の第一次請求を棄却する。

二  被告は原告に対し金三八九一万四五〇〇円を支払え。

三  被告は原告に対し、原告が金七〇〇万円並びに内金五〇万円に対する昭和四八年六月三〇日から右支払済みまで年一割八分、内金一六〇万円に対する同年七月七日から、内金二〇〇万円に対する同月一三日及び内金二九〇万円に対する同年八月二一日から各支払済みまで年一割五分の割合による各金員を支払うのと引換えに、別紙物件目録(二)記載の土地につき、東京法務局城北出張所昭和四八年七月一四日受付第六〇四二七号所有権移転請求権仮登記及び同年一〇月二六日受付第八八三二一号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  第一次請求

被告は原告に対し、別紙物件目録(一)、(三)記載の各土地(以下、別紙物件目録記載の土地を本件土地という。)につき、東京法務局城北出張所昭和四八年一一月一五日受付第九三八五八号所有権移転登記の、本件(二)土地につき、同法務局同出張所同年七月一四日受付第六〇四二七号所有権移転請求権仮登記及び同年一〇月二六日受付第八八三二一号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

二  第二次請求

1 被告は原告に対し、本件(二)土地につき、東京法務局城北出張所昭和四八年七月一四日受付第六〇四二七号所有権移転請求権仮登記及び同年一〇月二六日受付第八八三二一号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

2 被告は原告に対し金一億七八〇〇万円を支払え。

三  第三次請求

被告は原告に対し金二億一四六九万円を支払え。

四  第四次請求

被告は原告に対し、原告が別紙明細目録記載の金員を支払うのと引換えに、本件(一)、(三)土地につき、東京法務局城北出張所昭和四八年一一月一五日受付第九三八五八号所有権移転登記、昭和四九年五月二九日受付第三三七四九号の債務者被告、根抵当権者訴外株式会社大和銀行とする根抵当権設定登記及び同年一二月二四日受付第八五一五五号の債務者被告、抵当権者訴外中小企業金融公庫とする抵当権設定登記並びに本件(二)土地につき、同法務局同出張所昭和四八年七月一四日受付第六〇四二七号所有権移転請求権仮登記及び同年一〇月二六日受付第八八三二一号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  第二次請求2及び第三次請求につき仮執行の宣言。

(被告)

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告は、昭和三六年二月一一日、訴外亡浜中慶次から、本件(一)、(三)土地を相続により、また、昭和四八年七月七日、訴外天野初太郎から、本件(二)土地を売買によりそれぞれ取得した。

二  被告は、本件(一)、(三)土地につき、東京法務局城北出張所昭和四八年一一月一五日受付第九三八五八号所有権移転登記を、本件(二)土地につき、同法務局同出張同年七月一四日受付第六〇四二七号所有権移転請求権仮登記及び同年一〇月二六日受付第八八三二一号所有権移転登記をそれぞれ経由している。

三  仮りに、被告の抗弁どおりの売買契約、代物弁済予約及び代物弁済契約がなされたとしても、右各契約は、いずれも、事実上、原告が負担しあるいは将来負担する一切の債務を担保する目的でなされたものであり、被告において、自ら、確定的に所有権を取得した際に、価格を適正に評価し、あるいは他に換価処分して具体化する価格から、原告が被告に対して負担している債務を差引いて残額を原告に支払う趣旨でなされた契約であり、したがって、被告は、清算手続を終え、確定的にその所有権を自己に帰属させるまでは、担保目的の実現のための制約を受け、原告が被担保債権全額を弁済のため提供したときは、被告は原告に対し担保物を返還すべき義務を負うものである。

四  ところで本件土地は、六木土地区画整理組合によって区画整理が進行中であり、本件(一)、(三)土地は右区画整理組合二三街一一宅地一一三五平方メートルが仮換地として指定されており、右土地の時価は金二億二八一三万五〇〇〇円であり、本件(二)土地は四二街二宅地二〇五平方メートルが仮換地として指定されており、右土地の時価は金三六六九万五〇〇〇円であり、本件土地の時価は合計金二億六四八三万円である。

五  被告は、昭和五一年一月六日ころ、

1 訴外浅見東司を代理人として、原告の兄から、原告に対する貸金の弁済として、金三五〇万円を受領した。

2 足立区六木町土地区画整理組合から、原告の承継人と称して、金二三七万七七〇〇円を受領した。

六  被告は、本件(一)、(三)土地につき、所有権移転登記後、昭和四九年五月二九日、株式会社大和銀行に対し、債務者を被告として、東京法務局城北出張所第三三七四九号根抵当権設定登記を、同年一二月二四日、中小企業金融公庫に対し、債務者を被告として、同法務局同出張所第六〇四二七号抵当権設定登記をそれぞれなした。

七  ところで、被告が抗弁で出捐を主張する金額の内金五五〇〇万円については金四五〇〇万円の限度でこれを認めるが、被告は右出捐につき貸金であることを争っているので利息をつけることができず、その余の貸金については利息は利息制限法所定の制限利息の範囲内で止められるべきであり、したがって右貸金の弁済に対しては、本件(一)、(三)土地の所有権移転のみで可能であり、本件(二)土地は被担保債権を欠く無効な登記であり、本件(一)、(三)土地の価格金二億二八一三万五〇〇〇円に被告が受領した第五項の合計金五八七万七七〇〇円を加算した総額金二億三四〇一万二七〇〇円から被告の前記各出捐額及び利息を控除した金額を被告は原告に対し清算金として支払う義務がある。

八  仮りに本件(二)土地の登記の抹消が許されないとすれば、被告は原告に対し前項の金額に本件(二)土地の価格金三六六九万五〇〇〇円を加えた合計額を清算金として支払う義務がある。

九  よって原告は被告に対し、第一次には本件各土地の所有権に基づき本件各土地の第二項記載の各登記の抹消登記手続をなすことを求め、更に本件各土地の売買、代物弁済予約もしくは代物弁済契約が債権担保目的であることに基づき、第二次には第七項により本件(二)土地につき第二項の所有権移転請求権仮登記及び所有権移転登記手続をなし、かつ清算金の内金一億七八〇〇万円を支払うことを求め、第三次には清算金の内金二億一四六九万円を支払うことを求め、第四次には原告が別紙明細目録記載の金員を支払うと引換えに本件各土地につき第二項及び第六項の各登記の抹消登記手続をなすことを求める。

(請求原因に対する被告の認否)

一  請求原因第一、第二項は認める。

二  同第三項のうち、本件(一)、(三)土地の売買契約の趣旨については否認し、争うが、本件(二)土地の代物弁済予約及び代物弁済契約については、被告と原告は、原告が被告の抗弁第二項の貸金の弁済する際にはこれと引換えに抹消登記手続をなすことを条件に所有権移転登記手続をなした限度では認める。

三  同五項は否認する。

四  同第七、第八項は争う。

(被告の抗弁)

一  被告は、昭和四八年一〇月三一日、原告から、本件(一)、(三)土地を代金五五〇〇万円、支払方法は手附金は金一〇〇〇万円として、被告が昭和四八年七月二四日に原告に対し訴外戸ヶ崎浩司に対する仮処分に要する保証金として交付した金一〇〇〇万円をもって右手附金に充当する、残金四五〇〇万円は、原告が同年一一月一五日までに被告に所有権移転登記をなすこととし、これと引換えに支払うとの約定で売買契約を締結し、被告は原告に対し右約定どおり代金を支払って所有権移転登記手続をなしたものである。

二1  被告は原告に対し次のとおりの金員を貸し与えた。

(一) 貸付日 昭和四八年六月三〇日 金額 金五〇万円 弁済期 三ヶ月後 利息 一ヶ月五分

(二) 貸付日 同年七月七日 金額 金一六〇万円 弁済期及び利息(一)と同一

(三) 貸付日 同月一二日 金額 金二〇〇万円 弁済期及び利息 (一)と同一

2  被告は、右(三)の貸付の際、原告との間で、右(一)ないし(三)の各貸金を担保するため、本件(二)土地につき、代物弁済の予約をなし、同月一四日、本件(二)土地につき所有権移転請求権仮登記手続をなした。

3  更に被告は、同年八月二一日、原告に対し、金二九〇万円を、弁済期及び利息は前記各貸金と同一の約定で貸し与えた。

4  その後、原告は前記各貸金を弁済しないので、被告は、同年一〇月三日、原告との間で、原告が前記各貸金を弁済する際にはこれと引換えに抹消することを条件に、本件(二)土地につき、代物弁済を原因とする所有権移転登記をなすことの合意をなし、同月二六日、本件(二)土地につき所有権移転登記手続をなした。

(抗弁に対する原告の答弁)

一  抗弁第一項は否認する。

二  同第二項のうち、被告が原告に、昭和四八年六月三〇日に金五〇万円、同年七月七日に金一六〇万円、同月ころに金一〇〇万円を貸し与えたこと、各登記の存在は認めるが、その余は否認する。

(原告の再抗弁)

一  原告と被告との間の、本件土地についての、被告主張の各契約は、いずれも、訴外浅見東司弁護士が原告及び被告双方を代理してなしたもので無効である。

二  原告は、昭和四九年一〇月二〇日、浅見弁護士を通じて、被告に対し、金七〇〇万円を弁済した。

(再抗弁に対する被告の認否)

いずれも否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第一、第二項は当事者間に争いがない。

二  そこで被告主張の抗弁について判断する。

1  前項の事実に《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和四六年ころ、本件(二)土地に居住し、東京都足立区花畑町で寿司屋を営んでいたが、昭和四七年六月半ば、知り合いの電化製品販売業を営んでいる訴外平田和弘から営業資金が困っているので原告所有地を担保にして借金して欲しいと要請され、平田が信頼できる人物であり、原告自身も銀行の借金の返済のために金三〇〇万円の資金が必要であったため、同年一〇月三〇日ころ、巴山商事こと訴外巴山福奎から、金一五〇〇万円を利息月五分の約束で借り受け、右借金の担保のため、同月三一日、巴山及び訴外金子栄伍に対し、本件(一)土地につき、各持分二分の一の所有権移転請求権仮登記手続をなし、本件(一)土地の権利証も手渡したが、その後、更に、平田から、再度、借金の依頼を受けたので、同年一二月二五日ころ、訴外東谷信輔から、金一〇〇〇万円を利息月五分、巴山及び東谷に二ヶ月以内に弁済できないときは違約金として金八〇〇万円を支払うことを約束して借り受け、巴山及び東谷の借金の担保のため、同月二六日、巴山のためになした本件(一)土地の右仮登記を抹消したうえ、本件(一)、(三)土地につき、各持分二分の一の所有権移転仮登記手続をなすと共に、本件(一)、(三)土地の権利証を巴山及び東谷に手渡したこと。

(二)  ところが、原告及び平田は前記各借金を返済できず、巴山と東谷から催足を受けていたところ、平田が、昭和四八年三月、倒産して行方を暗ましてしまったため、原告が全額弁済しなければならなくなり、知人から紹介を受けて、同年四月二日、訴外宝生産業株式会社から、金四〇〇〇万円を前払利息二ヶ月分として金三二〇万円を天引して借り受け、巴山と東谷に対し、金三三〇〇万円を支払って、前記仮登記を抹消し、宝生産業に対し、右借金の担保のため、本件(一)、(三)土地につき、条件付所有権移転仮登記、債権額金四〇〇〇万円の抵当権設定登記及び停止条件付賃借権仮登記をそれぞれなし、宝生産業は巴山らから、本件(一)、(三)土地の権利証を受取ったが、更に、原告は宝生産業に対する利息を支払えなかったため、同年六月二日、訴外大京商事株式会社から、金二〇〇万円を前払利息二ヶ月分として金二〇万円を天引して借り受け、右借金の担保のため、大京商事に対し、同月八日に本件(一)土地につき、同年七月七日に本件(三)土地につき、停止条件付所有権移転仮登記、債権額金二〇〇万円とする抵当権設定登記及び停止条件付賃借権仮登記をそれぞれなしたこと。

(三)  原告は宝生産業及び大京商事に対する借金の返済ができないため、昭和四八年六月二九日ころ、弁済の猶予を頼むため大京商事の事務所を訪れたところ、大京商事の代表者である訴外渡辺芳男や宝生産業の代表者である戸ヶ崎浩司から、弁済の猶予の代りに本件(一)、(三)土地の所有権を借入金相当額で戸ヶ崎に売買するように強く要請されたため、土地売買契約書に署名押印してしまい、戸ヶ崎は、同月三〇日に本件(一)土地につき、同年七月七日に本件(三)土地につき、それぞれ所有権移転登記手続をなしたこと。

(四)  ところで、被告は紳士服の製造、販売を主たる目的とする会社で訴外藤岡満が代表取締役であるが、原告は、昭和四八年六月三〇日、藤岡の知り合いである訴外比企恒男の紹介で、被告から、営業資金として金五〇万円を、利息月五分として借り受けたことがあり、その後、原告は、同年七月初旬、藤岡に本件(一)、(三)土地の問題について相談したところ、藤岡は原告にとりあえず金利だけは支払っておくように指示したので、原告は、同月七日、被告から、金一六〇万円を前回の借金と同じ約定で借り受け、宝生産業に同年七月分の利息として支払ったこと。

(五)  その後、原告は被告から浅見弁護士を紹介され、浅見弁護士に本件(一)、(三)土地の問題について相談したところ、戸ヶ崎に対して本件(一)、(三)土地を処分させないように処分禁止の仮処分を申請することとし、昭和四八年七月二四日、東京地方裁判所に対し、戸ヶ崎を債務者として、本件(一)、(三)土地につき処分禁止の仮処分の申請をしたところ、保証金一〇〇〇万円で許可されることになったので、原告は、同月二五日、被告から、保証金一〇〇〇万円を借り受けて、供託し、右仮処分決定を得たが、その際、浅見弁護士の助言により、宝生産業や大京商事に本件(一)、(三)土地を低額で売却したり、担保に提供しないために、同日、被告に対し、本件(一)、(三)土地を代金八〇〇〇万円で売買し、本件(一)、(三)土地を第三者に売買するときに原告と被告との間で清算する旨の合意をなし、原告と被告の代理人訴外藤岡純子とが、比企を立会人として、本件、(一)、(三)土地の土地売買契約公正証書を作成したこと。

(六)  その間、原告は、昭和四八年七月一三日、被告から浅見弁護士に対する報酬など合計二〇〇万円を前回と同じ約束で借り受け、その際、それまでの借金の担保として、本件(二)土地につき、代物弁済の予約をなし、同月一四日、被告に対し、本件(二)土地につき、所有権移転請求権仮登記手続をなし、更に、その後、同年八月二一日、被告から、金二九〇万円を右借金と同じ約束で借り受けたこと。

(七)  宝生産業は、昭和四八年八月初旬、本件(一)、(三)土地につき、抵当権に基づく任意競売申立をなし、同月七日、競売手続開始決定がなされ、同年一一月になって最低競売価格が約金四五〇〇万円とされたが、その間、浅見弁護士が宝生産業と大京商事と接渉し、原告が金四五〇〇万円を支払うことで、宝生産業ら及び戸ヶ崎の有する各登記を抹消し、任意競売を取下げることで話し合いがつき、原告と被告とは、同年一〇月三一日、本件(一)、(三)土地の売買契約を解除して、改めて、代金五五〇〇万円で売買契約をなし、内金一〇〇〇万円は仮処分の保証金をもってあて、残金四五〇〇万円は宝生産業らへの支払金とすることとし、原告と被告の代理人である訴外山崎崇との間で、同日、土地売買契約公正証書を作成し、浅見弁護士は、同年一一月六日、戸ヶ崎に対する仮処分の執行取消申請をだし、同月八日、仮処分の抹消登記がなされ、同月一二日、宝生産業らに被告から原告に代って金四五〇〇万円が支払われたので、宝生産業は、同月一三日、本件(一)、(三)土地の任意競売申立を取下げ、同月一四日、抹消登記がなされ、宝生産業、大京商事及び戸ヶ崎は、同月一五日、本件(一)、(三)土地につき、その有する各登記の抹消登記手続をなし、被告は宝生産業から本件(一)、(三)土地の権利証を受取って、同日、所有権移転登記手続をなしたこと。

(八)  原告は被告からの合計四回にわたる前記各借金の元利金を弁済しなかったため、昭和四八年一〇月三日、被告との間で、原告が被告に借入金の元利金を弁済したときは、これと引換に抹消することを条件として、本件(二)土地の所有権移転登記手続をなすことの合意をなし、被告は、同月二六日、本件(二)土地につき所有権移転登記手続をなしたこと。

2  ところで、原告本人尋問の結果中には、右1認定に反し、「本件(一)、(三)土地は所有名義を被告に移したにすぎなく、原告は被告から金五〇万円、金一六〇万円及び金一〇〇万円以外には金銭を借り受けたことはない。」旨の供述部分があるが、

(一)  原告本人の供述においても、売買を前提として、浅見弁護士が、後日、責任をもって清算することを約束した旨の供述部分があり、また被告は原告のため戸ヶ崎に対する仮処分の保証金一〇〇〇万円及び宝生産業らに対する解決金四五〇〇万円の合計金五五〇〇万円を出捐しており、右金額は売買代金と一致することが認められ、売買の成立を裏付ける書面が存在しており、本件(一)、(三)土地の名義を被告に移したにすぎない旨の供述部分は信用することができない。

(二)  《証拠省略》によれば、被告は原告に対する貸金は藤岡の義姉である訴外大賀とめ子から借り受けてなしたものであるが、原告が借金を返済しないため、昭和四八年一〇月一一日、原告との間で、大賀のために担保を提供することを合意し、原告は大賀に対し、東京都足立区六木町一九八番二畑一六五平方メートルにつき、所有権移転請求権仮登記、債権額金七〇〇万円とする抵当権設定仮登記及び賃借権設定請求権仮登記をそれぞれなしたことを認めることができ、右事実に前記1記載の各証拠に照らして、被告から金七〇〇万円を借り受けたことはない旨の供述部分は信用することができない。なお、原告は大賀が関係する被告からの借金は、訴外株式会社山本建興に対する仮処分の保証金のためのものである旨供述しているが、《証拠省略》によれば、仮処分がなされたのは右各登記の一月半後である同年一一月二八日であり、《証拠省略》によれば右仮処分についての原告の訴訟代理人の浅見弁護士が被告から仮処分のため金七一〇万円を受取っており、右月日も同月二六日であることから、右供述部分は信用することができない。

3  また、被告代表者尋問の結果中には、被告の原告に対す貸金には弁済期の定めがあった旨供述しているが、右供述は明確でなく、右供述だけでは弁済期の定めがあったことを認めることができない。

三  次に原告主張の再抗弁について検討するに、

1  《証拠省略》によれば、浅見弁護士が原告と被告との間の本件(一)、(三)土地の売買について、ある程度、関与したことは認められるが、右事実以上に浅見弁護士が原告と被告との双方代理をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、本件(二)土地の契約に浅見弁護士が関与したことを認めるに足りる証拠はない。

2  本件全証拠によるも再抗弁第二項を認めることはできない。

四  ところで、第二項1認定の事実によれば、

1  本件(一)、(三)土地の売買契約は、被告が出捐した金銭の担保を目的とする契約であると認めることができる。

ところで、《証拠省略》中には、右認定に反する供述部分があるが、

(一)  《証拠省略》によれば、本件(一)、(三)土地を金八〇〇〇万円ないし金九〇〇〇万円で購入を希望する会社がいたこと、原本の存在及び成立につき争いがない甲第二号証によれば、不動産業者である訴外光和不動産株式会社が本件(一)、(三)土地の昭和四八年七月当時の価格は金一億円を越えるものと判断していたことから、本件(一)、(三)土地の当時の価格は売買代金額を大巾に上まわっていたことを認めることができる。なお、本件(一)、(三)土地の任意競売における最低競売価格が金四五〇〇万円であることは《証拠省略》によって認められるが、右最低競売価格は、通常、取引価額よりも低いことは経験則上明らかであり、第一回鑑定の結果によれば、売買時よりも約二年後の昭和五〇年一二月一〇日における鑑定価格は金九三九一万四五〇〇円であることが認められるが、右期間はいわゆるオイル・ショックによる影響のため大巾な不動産価格の上昇はなかったことは公知の事実であり、右各事実は前記認定を妨げるものとはならない。

(三)  原告と被告との本件(一)、(三)土地の売買代金額は昭和四八年七月二五日における契約では金八〇〇〇万円であったのに、同年一〇月三一日における契約では金五五〇〇万円に減額され、右金額は被告が原告のために出捐した金額と一般している。なお、右の点に関し、被告代表者尋問の結果中には藤岡は、当時、交通事故で入院していたため、外出できなかったので、値段はあとで互いによく調査して決めることとし、後日、本件(一)、(三)土地が区画整理のため約三〇パーセント減歩されることがわかったので、最低競売価格を考えて金五五〇〇万円とした旨の供述部分があるが、代金不確定のときに公正証書まで作成することは考えられないばかりでなく、最初の契約の公正証書では右代金額変更の点を明記してはなく、原告が本件(一)、(三)土地を剰余金を得ることなく所有権を譲渡するような契約の変更を容易に承諾することは考えられず、また区画整理がなされた土地は、ある程度、減歩されたとしても、価格が下るとは考えられず、第二回鑑定の結果によって本件(一)、(三)土地は大巾な価格上昇が認められ、これからすると右供述部分は信用することはできない。

以上の点に、第二項1の事実を考えると、第二項1認定に反する供述部分は信用することができない。

したがって、本件(一)、(三)土地の売買契約の趣旨から考えれば、被告が第三者に譲渡するなどの換価処分をするまでは、原告は債務を弁済して本件(一)、(三)土地の所有権移転登記の抹消を求めることが、被告が右換価処分をして、所有権取得の意思を明確にしたときは、原告は被告に対し、右処分時の本件(一)、(三)土地の価格と債務額との差額を清算金として請求できると考えられるところ、《証拠省略》によれば、被告は本件(一)、(三)土地につき、昭和四九年五月二九日に大和銀行のため極度額金二〇〇〇万円の根抵当権設定登記を、同年一二月二四日に中小企業金融公庫のため債権額金一〇〇〇万円の抵当権設定登記をなしたことを認めることができ、これによれば被告は右行為によって換価処分をなしたとみることができ、被告は右処分時における清算をなす義務があるというべきであり、原告は右処分時以後の清算を主張しているが理由がない。そこで、本件(一)、(三)土地の右処分時の価格を検討するに、第一回鑑定の結果によれば、昭和五〇年一二月一〇日における本件(一)、(三)土地の価格は金九三九一万四五〇〇円であるが、右鑑定には昭和五〇年一月一日における地価公示価格を基準として利用しており、しかも昭和四九年から昭和五〇年にかけては右価格及び国土法による基準地価格にいずれも低下していることが認められ、他に右価格を認定する証拠がないことから、被告の処分時における本件(一)、(三)土地の価格は金九三九一万四五〇〇円であると認めるのが相当である。次に原告が被告に負っている債務は金五五〇〇万円であり、右債務については被告は利息及び弁済期の主張がない以上、右金額が債務であると認めることができる。なお、原告は金一〇〇〇万円は被告に弁済したと供述しているが右供述は伝聞にすぎず、信用することができない。

以上によれば、被告は原告に対し、本件(一)、(三)土地と原告の債務との差額である金三八九一万四五〇〇円を清算金として支払う義務を負っている。なお、弁論の全趣旨によれば、原告は遅延損害金を請求しないものと判断できる。

2  本件(二)土地については、原告が被告に対し合計金七〇〇万円及びこれに対する貸付の日から利息制限法の範囲内の利息を支払うのと引換えに、被告は本件(二)土地につき、有する各登記を抹消する義務を負う。

五  請求原因第五項については、右主張に符合する原告本人尋問の結果があるが、これを補強する書面がないばかりでなく、右主張に相反する《証拠省略》が存在することから、原告本人尋問の結果だけでは右主張を認めることができない。

六  以上によれば、原告の第一次請求は理由がないので棄却するが、第二次請求については第四項で認める限度で理由があるので認容し、その余の部分は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言の申立は相当でないので、これを却下する。

(裁判官 小松峻)

〈以下省略〉

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